グローバルビジネスにおいてアジアの重要性が益々高まっていることは言うまでもない。その中でもアジアの小売市場はその規模と成長性の観点のみならず、デジタルリープフロッグの在り様含めて世界中から注目を集めている。
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中国系ECプラットフォームとOTTがもたらす東南アジアFMCG市場の構造変化
50%に至る「EC市場の占有」と、国として「ブランド力の向上」──この二つの柱によって、中国FMCGが東南アジア市場を席捲する日も遠くないのではないだろうか。その事実に気づいていないのは、我々、日本人だけかもしれない。
東南アジアではタイをはじめとして、中国勢のEVによる進出が加速している。足許では停滞が見え始めてはいるものの「中国」という国自体の存在感は、東南アジア消費者の中で確実に高まった。中国EVの東南アジア侵攻が実際にどこまでのものなのかは、この地域に関わる日系企業にとって大きな論点であることは間違いない。
しかし、筆者はそれとは別に、中国がもたらす新たな東南アジア市場の構造変化についてを提起したい。それは、中国FMCG(Faster Moving Consumer Goods:日用消費財)によるものだ。これまであまり議論の俎上には挙がってきていないものの、中国のFMCGは東南アジアでの事業基盤を着実に固めている。食品、日用品、化粧品、アパレルなど、東南アジア消費者が日常的に使うものにおいて中国のシェアは今後高まってくると考える。
東南アジア小売市場では、デジタルリープフロッグの代表事例としてECシフトが急速に進んできた。東南アジア消費者にとって既に一般的な購買様式に組み込まれたEC──この市場の半分は中国系プラットフォームであるLazada、Shopee、そしてTikTok Shopが抑えている。このことは、中国FMCGにとって、東南アジアでの拡販を実現するうえでの大きなアドバンテージになる。中国FMCGは、LazadaやShopeeといった中国系ECプラットフォームを介し、越境ECとして東南アジアへと流入していく。
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また、それとは異なる動きとして、近年、ViuやWeTVといった中国系OTT(Over the Top:Netflixなどの動画配信プラットフォーム)の東南アジアでの浸透が進んでいる。この中国系OTTを梃子に、中国コンテンツ(ドラマなど)が東南アジアでも急速に市民権を得てきているのだ。これはかつて韓国がソフトパワーを用いて、国としてのブランド力を向上させたアプローチに類似したものだと筆者は捉えている。国としての信頼と好感度を高めることで、個別ブランドや商品の訴求力を底上げしていく。そして、それは功を奏し始めており、東南アジア消費者にとって、中国ブランドはかつてのような「安かろう悪かろう」では既に無くなっている。
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東南アジアEC市場の占有によって流通チャネルを抑え、更には国としてのブランドパワーを中国は高めていく──この延長線上には、中国ブランドが東南アジアFMCG市場を席捲する世界線なのではないか。本稿ではそのシナリオの可能性についてを論じたい。
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