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自動車産業で起きる非連続な変化を読み解く

自動車産業で起きる非連続な変化を読み解く

2022年7月4日

Automotive Disruption Radar #11

ローランド・ベルガーでは2017年1月より年に2回、グローバルの自動車産業の変化に係るマーケットトレンド分析、Automotive Disruption Radar(ADR)を発表しております。発表内容はローランド・ベルガーがグローバルで保有する知見、業界エキスパートの知見、更には23か国・23,000名以上の自動車ユーザーへのアンケートに基づいております。

本ADR#11発表にあたり、以下(抜粋)のような問い、約50問程度についてアンケート調査・分析を行いました。

Connected(コネクテッド)
・出発地から目的地までの移動を検討するにあたり、月当たり、どの程度頻度でアプリを使用しますか?
・クルマの購入にあたり、インターネットを活用し、購入車両の選定・購入の意思決定を行いますか?

Autonomous/Automated(自動化)
・完全な自律型ロボットタクシー(ドライバーレス)が自家用車での移動よりも低価格で提供される場合でも、自家用車を購入しますか?

Shared(シェアリング)
・カーシェアや公共交通機関、タクシー等の使用を理由にクルマを所有していない/所有したくないと考えている人は周りに何名いますか?
・過去数週間を振り返り、移動した距離のうち、クルマを使用した割合はどの程度ですか?

Electric(電動化)
・次に自家用車を買い替える際、バッテリーEVの購入を検討しますか?

ADRでは、5つの領域に紐づく、26の項目に関して、各国の取組を指標化し、ランキングを作成しています。

要旨

ADRの指標における総合評価は中国・オランダがリード

中国、オランダがADRの総合評価において上位に位置します。中国は5Gの進展で優勢であり、オランドはノルウェーやスウェーデンに次いで、EV・PHEV・FCEVの販売割合が高く、EVの充電ステーションの数(道路100kmあたりの数)においては韓国に次いで2位に位置しています。

更に、ADRの毎回の調査で順位を上げており、今回4位に位置するノルウェーはCO2の排出量ターゲットと内燃機関の使用禁止の検討において他国と比較し進展しています。また、日本は23か国中、16位に位置し、一年前のADR#9時点の13位から順位を落とした形になります。

自動車産業のサステイナビリティに係る取組は今後更に強化が必要

また、昨今より注目が集まる、サステイナビリティの一要素として、温室効果ガス低減への取組に関しアンケートを23か国の運転免許を持つ1,000名へ実施しました。

結果、42%が自動車産業の温室効果ガス低減への取組に満足しており、39%が逆に、更なる削減努力をすべきと答えています。アジアと欧州の回答者を比較すると、アジアの回答者の方が比較的ポジティブな反応を示しており、日本はグローバル平均値に近い値を示しています。

巨大な市場であり、技術進展・新興OEM等の台頭が進む中国では、中国OEMブランドが優勢。欧米・日韓企業は中国での成長戦略の見直しが肝要

中国OEMのEVは中国・インド・タイ・インドネシア、等のアジア地域で既に高い知名度を誇ります。例えば、中国国内では、中国ブランドのEV車両を購入可能性が非常に高い/高いと答えた人の割合が計81%(それぞれ42%、39%)であり、タイにおいても計53%(それぞれ16%、37%)に達しました。

ここから言えることとして、中国国外のプレイヤーは巨大な中国市場での知名度・浸透率の改善・向上がEV拡大に向けては急務だと言えます。中国において戦うためには、まず中国向け車両モデルの開発を進め、中国の顧客ニーズを満たすことが挙げられます。

更に、中国の顧客ニーズを満たすべく、オンデマンドの機能を強化し、新たな収益源とすることが挙げられます。その為には、最先端のE/Eアーキテクチャの開発や細やかで迅速なソフトウェア機能のアップデート対応、等が不可欠となります。

日本の自動車ブランドは国内のみならず海外においても支持は厚く、有望な市場は多数あり。対象地域の顧客ニーズや競争環境を把握した戦略の構築が成功の要因

日本では中国ブランドの支持率が非常に低くとどまります。中国ブランドのEV車両を購入する可能性が非常に高い/高いと答えた人の割合は、タイでは計53%、アメリカでは計31%、イギリスでは計24%に対して、日本では最下位で計3%に留まります。つまり、国によって中国ブランドへの見方は大きく分かれるわけです。

同時に、日本ブランドはアジアのみならず欧米でも高い評価を得ています。各国において自国ブランド以外で比較した際の、日本の自動車ブランドへの知名度・人気は非常に高く、欧米・韓国、等と比較しても優れた評価を得ています。

このような調査結果は、改めて、日本の自動車関連企業が、グローバルで成長するためのポテンシャルがあることを示しています。但し、例えば、欧米において、中国ブランドと競合する際には、中国ブランドがどの程度欧米、等の地域で受容されているのか、について日本人の感覚ではなく、欧米人の感覚に基づいて評価・判断していくことが業績拡大を目指す上で不可欠ではないでしょうか。

つまり、グローバルマーケットが顧客ニーズ・競争環境という観点において、国によって異なるという事実を理解し、各地域の顧客ニーズを満たすようにテーラーメイドな戦略・車両開発・サービス提供、競合との差別化を検討していく必要があるのです。

100年に1度の変化と言われる自動車業界。その変化のスピードは常に変わるものであり正しく読むのは難しい。そして、それは国によってスピードも異なることでしょう。グローバルでのビジネスが必須になる中、日本市場の状況のみで戦い方を考えると判断を誤ることになります。ローランド・ベルガーでは、グローバル横串を通したスタディを今後も続け、世界の変化を追っていきます。

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